賃上げとリスキリング
最低賃金は2025年度に過去最大の66円、2026年度も56円引き上げられ全国加重平均1,177円になる見込み。政府は「全国平均1,500円」の達成時期を骨太2026で「遅くとも2030年代前半」と書き直し、地方審議会の目安超え競争や発効日の後ろ倒しをどう抑えるかが制度運用の焦点になった。引上げを支える業務改善助成金やキャリアアップ助成金を、補正頼みから当初予算(投資枠)へ移せるかも問われている。
選んだ理由:最低賃金の引上げ支援と省力化投資が伸びる。予算の大半は非正規雇用のキャリアアップ助成。中央最低賃金審議会などの開催が多い。
中心の会議体・場
- 中央最低賃金審議会(目安に関する小委員会) 厚生労働省 · 毎年、地域別最低賃金の引上げ額の目安(A・B・Cランク別)を厚生労働大臣に答申する公労使三者構成の場。
- 中央最低賃金審議会 目安制度の在り方に関する全員協議会 厚生労働省 · 目安の示し方、ランク区分、発効日の考え方など目安制度そのものの見直しを議論する場(2026年2月再開)。
- 労働政策審議会 同一労働同一賃金部会 厚生労働省 · パートタイム・有期雇用労働法等の施行5年後見直しとして、非正規雇用労働者の待遇改善(ガイドライン・省令)を審議する場。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業8件のうち4件。
ブリーフ
対象期間 2026-06-23〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.03 地域別最低賃金:全47都道府県で答申出そろう、全国加重平均1,177円(+56円)
厚生労働省
- 引上げ額は54〜65円で、全国加重平均は1,121円→1,177円。目安どおりなら55円だったが、目安を上回った府県が33、目安どおりが14。
- 最高は東京1,280円、最低は宮崎1,085円で、最高額に対する最低額の比率は84.8%。最大の上乗せは佐賀(目安56円に対し65円)。
- 発効日は10月1日から12月2日(沖縄)まで。11月以降の発効は10県で、年明け以降の発効はない。
原文:厚労省 答申状況の公表 / 答申状況一覧(別紙)
2026.08 令和9年度概算要求:業務改善助成金を543億円(当初21億円)に、全額「強く豊かな日本」投資枠
厚生労働省
- 業務改善助成金は543億円を要求(令和8年度当初21億円、令和7年度補正352億円)。90円コースの助成上限引上げ、助成率を事業場内最低賃金1,100円未満4/5・以上3/4に見直し、申請期間の拡充を検討するとした。
- 「賃上げ」支援助成金パッケージとして、キャリアアップ助成金(正社員化・賃金規定等改定)583億円(554億円)、人材開発支援助成金(訓練実施)596億円(533億円)などを並べた。
- 厚労省の一般会計要求は36兆5,803億円(令和8年度35兆433億円)で、うち投資枠1兆337億円。
原文:厚労省 R9概算要求の概要 / 主要施策集(賃上げ環境整備) / R9概算要求関係ページ
2026.07.28 中央最低賃金審議会 第75回:目安はAランク54円、B・Cランク56円(全国加重平均4.9%・55円)
厚生労働省
- 目安小委員会は6月26日の諮問から6回審議したが労使の意見が一致せず、公益委員見解として目安を示した。仮に目安どおりなら全国加重平均1,176円、引上げ率4.9%(前年6.3%)。
- 公益委員見解は、物価上昇率の鈍化(持家の帰属家賃を除く総合で平均2.1%)と、高水準の春闘・賃金改定状況調査の賃金上昇率3.0%を踏まえ、「全国加重平均4.9%(55円)を基準」とした。
- 答申は政府に、業務改善助成金の充実、キャリアアップ助成金等の賃上げ加算、取適法の執行体制強化、官公需での価格転嫁の徹底などを要望した。
原文:答申ページ / プレスリリース / 目安小委員会報告 / 公益委員見解・参考資料
2026.07.21 骨太方針2026を閣議決定:最低賃金1,500円は「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」
内閣府
- 「2020年代に全国平均1,500円という高い目標(骨太2025)の達成に向け」努力を続け、「遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する」と書いた。
- 2029年度までに実質賃金で年1%程度の上昇を「賃上げのノルム」として定着させるとし、地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げるなど地域間格差の是正も掲げた。
原文:骨太方針2026 本文 / 閣議決定ページ
2026.06.23 全員協議会:「令和7年度地方最低賃金審議会の審議結果を踏まえた論点と考え方の整理」
厚生労働省
- 近隣県との比較や最下位回避の動機で地域の実態と乖離した引上げをするのは適切でないとし、目安に大幅に上乗せする場合は理由を地方審議会の公益委員見解で明らかにすべきとした。
- 発効日は「大幅な引上げ額を確保するための過度な交渉材料とするべきではない」とし、指定日発効にする場合は必要な準備期間を具体的に議論し、理由を示すよう求めた。
- ランク区分の見直しとEU指令(賃金中央値の60%等)の扱いは、時間をかけて継続議論することで合意した。
次に来ること
- [2026年10月1日〜12月2日] 2026年度の地域別最低賃金が順次発効 10月1日の東京・大阪など主要都府県から始まり、最後は12月2日の沖縄。発効日は異議申出の状況で変わる可能性がある。 · 根拠
- [2026年10月1日] 同一労働同一賃金ガイドライン改正と関係省令の施行 部会報告を受けた省令改正・ガイドラインの明確化が適用される。 · 根拠
- [2026年12月(予算編成)] 令和9年度予算政府案で業務改善助成金等の額が決まる 543億円を投資枠で要求しており、当初予算でどこまで認められるか、補正との分担がどうなるかが見どころ。 · 根拠
- [時期未定] 全員協議会でランク区分・EU指令の扱いを継続議論 「一定の時間をかけて議論を尽くす」とされ、ABC区分の枠組みそのものの見直しも意見として出ている。 · 根拠
流れ
| 日付 | できごと | 種類 |
|---|---|---|
| 2024.07.25 | 中賃が2024年度目安を答申(A・B・Cとも50円)。地方答申を経て全国加重平均1,055円(+51円)に 厚生労働省 | |
| 2025.06.13 | 骨太方針2025を閣議決定:「2020年代に全国平均1,500円」の目標 内閣府 | |
| 2025.08.04 | 中賃が2025年度目安を答申(A・B 63円、C 64円)。目安制度開始以来の最高額 厚生労働省 | |
| 2025.09.05 | 2025年度の地方答申が出そろう:全国加重平均1,121円(過去最大+66円)、39道府県が目安超え 厚生労働省 | |
| 2025.12.25 | 同一労働同一賃金部会が施行5年後見直しの報告案を審議(法的枠組みは変えずガイドラインを明確化) 厚生労働省 | |
| 2026.01 | 取適法(改正下請法)・改正振興法が施行、価格転嫁・取引適正化を強化 国会 | |
| 2026.02.27 | 中賃「目安制度の在り方に関する全員協議会」が再開(第1回) 厚生労働省 | |
| 2026.03.02 | 同一労働同一賃金部会が省令案要綱等を審議(2026年10月1日施行) 厚生労働省 | |
| 2026.03.31 | 秋田県の2025年度最低賃金が発効。発効日は10月1日(栃木)から翌年3月31日まで分散 厚生労働省 | |
| 2026.06.23 | 全員協議会が「論点と考え方の整理」:目安超え競争と発効日の交渉材料化を戒める 厚生労働省 | |
| 2026.06.24 | 中小企業庁「労働供給制約社会における中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略」を策定・公表 経済産業省 | |
| 2026.06.26 | 厚労大臣が中賃に2026年度目安を諮問、目安小委員会を設置 厚生労働省 | |
| 2026.07.21 | 骨太方針2026を閣議決定:1,500円は「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」 内閣府 | |
| 2026.07.28 | 中賃が2026年度目安を答申(A 54円、B・C 56円) 厚生労働省 | |
| 2026.08 | 令和9年度概算要求:業務改善助成金543億円(当初21億円)を投資枠で要求 厚生労働省 | |
| 2026.09.03 | 2026年度の地方答申が出そろう:全国加重平均1,177円(+56円)、33府県が目安超え 厚生労働省 | |
| 2026.10.01 | (予定)2026年度最低賃金の発効開始、同一労働同一賃金ガイドライン改正の適用 厚生労働省 | · 予定 |
論点
| 論点 | 立場A | 立場B | いま |
|---|---|---|---|
| 1,500円目標の時期 | 骨太2025:「2020年代に全国平均1,500円」 | 骨太2026:「遅くとも2030年代前半できる限り早期に」達成 | 2026年度は1,177円で、目標まで323円。毎年の額は法定3要素に基づき審議会で決めるとの位置づけは両方針で共通。 |
| 引上げ額の根拠 | 労働者側(目安小委報告):生計費を賄える水準へ大幅引上げ、中期的に一般労働者の賃金中央値の6割を重視。支払能力は問題ない | 使用者側(同):罰則付きで全企業に適用される以上、小規模企業の支払能力を重視。中東情勢等のコスト増、防衛的賃上げに留意 | 公益委員見解で全国加重平均4.9%(55円)を基準に決着。労使とも「不満の意」を表明。 |
| 地方の目安超え | 全員協議会の整理:近隣県比較・最下位回避による上乗せは不適切、大幅上乗せは理由を公表 | 労働者側:Cランクの大幅上乗せは地域の自主性の結果だが目安の意義が問われる、額差是正のメッセージを強めるべき | 目安超えは2025年度39道府県→2026年度33府県、最大上乗せは+9円(佐賀)に縮小。 |
| 発効日の後ろ倒し | 労働者側:法定発効が基本、指定日発効は特別な理由に限る。年収の壁は給付付き税額控除など別制度で対応を | 使用者側:準備期間確保のため年初発効を求める声が多く、指定日発効には一定の意義 | 整理で「交渉材料にしない」と確認。2026年度は最遅12月2日、11月以降10県で越年なし(前年は27府県が11月以降、6県が越年)。 |
| 地域間格差とランク区分 | 骨太2026:最高額に対する最低額の比率を引き上げ格差是正 | 全員協議会の委員意見:ABC区分の枠組み自体を見直すべき、ランク区分が格差の一因 | 2026年度の比率は84.8%。ランク区分の見直しは継続議論。 |
| 最低賃金水準の国際指標(EU指令) | 労働者側:中央値の6割水準を重視 | 全員協議会・公益委員見解:OECD比では中央値の46.4%だが、所定内給与なら61.2%。賃金の範囲など定義を精査して議論すべき | 「一定の時間をかけて議論を尽くす」として継続。 |
| 非正規の待遇(同一労働同一賃金) | 労働者代表委員:無期転換者を含む無期フルタイム労働者も待遇改善の対象に | 部会報告:現時点では法的枠組みを変えず、ガイドラインで均衡考慮の趣旨を示す | ガイドライン明確化と省令改正を2026年10月1日から適用。法規定の在り方は施行状況を見て検討。 |
立場は、中央最低賃金審議会目安に関する小委員会報告(2026年7月28日)、全員協議会「論点と考え方の整理」(2026年6月23日)、公益委員見解、骨太方針2025・2026、同一労働同一賃金部会報告に基づく。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
中央最低賃金審議会
名簿の時点 2026年6月1日(目安小委員会の委員は2026年7月28日答申の参考6)
- 藤村 博之 会長・公益委員(目安小委員会) 独立行政法人労働政策研究・研修機構理事長
- 戎野 淑子 公益委員(目安小委員会) 立正大学経済学部教授
- 小西 康之 公益委員(目安小委員会) 明治大学法学部教授
- 首藤 若菜 公益委員(目安小委員会) 立教大学経済学部教授
- 権丈 英子 公益委員 亜細亜大学経済学部長・教授
- 松浦 民恵 公益委員 法政大学キャリアデザイン学部教授
- 伊藤 彰英 労働者側委員(目安小委員会) 日本基幹産業労働組合連合会企画調査部部長
- 柴田 美千子 労働者側委員(目安小委員会) UAゼンセン労働条件局部長
- 仁平 章 労働者側委員(目安小委員会) 日本労働組合総連合会総合政策推進局長
- 水崎 恵一 労働者側委員(目安小委員会) 全日本電機・電子・情報関連産業労働組合連合会中央執行委員
- 進藤 創 使用者側委員(目安小委員会) 日本商工会議所産業政策第二部部長
- 田上 雄一 使用者側委員(目安小委員会) 全国中小企業団体中央会労働政策部長
- 土井 和雄 使用者側委員(目安小委員会) 全国商工会連合会中小企業問題研究所長
- 新田 秀司 使用者側委員(目安小委員会) 一般社団法人日本経済団体連合会労働政策本部長
お金
このテーマに束ねた8事業。令和7年度当初 1,051億円 → 令和8年度要求 1,120億円。
| 事業 | 府省 | 当初 | 要求 |
|---|---|---|---|
| 非正規雇用の労働者のキャリアアップ事業の実施 | 厚生労働省 | 1,025億円 | 1,022億円 |
| 最低賃金引上げに向けた中小企業・小規模事業者支援事業 | 厚生労働省 | 14.5億円 | 35.2億円 |
| 中堅・中小・スタートアップ企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金 | 経済産業省 | 8.7億円 | 52.5億円 |
| 中小企業リスキリング支援事業 | 厚生労働省 | 2.5億円 | 2.6億円 |
| 第三次・担い手3法施行に向けた建設業の賃上げのための環境整備 | 国土交通省 | 0円 | — |
| 産業構造変化を見据えたスキル可視化・リスキリング基盤整備事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| 介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業 | 厚生労働省 | 0円 | — |
| 中堅・中小企業の賃上げに向けた省力化等の大規模成長投資補助金(地域企業経営人材確保支援事業給付金) | 経済産業省 | 0円 | 7.4億円 |
注目点
- 10月1日から12月2日にかけての各地の発効で、発効日の分散が前年より縮んだことが賃金実態にどう出るか。
- 12月の令和9年度予算編成で、業務改善助成金543億円(投資枠)がどこまで当初予算に入るか。
- 「遅くとも2030年代前半」の1,500円目標に対し、2027年度以降の目安がどの水準で組まれるか。
- 全員協議会でのランク区分とEU指令(中央値6割等)の議論が、いつ再開・取りまとめに向かうか。
- 同一労働同一賃金ガイドライン改正(10月1日適用)の後、法規定の見直しに進むかどうか。
出典
- 中央最低賃金審議会(開催一覧)
- 目安に関する小委員会(開催一覧)
- 目安制度の在り方に関する全員協議会(開催一覧)
- 令和8年度 目安答申
- 令和8年度 公益委員見解・参考資料
- 令和8年度 目安小委員会報告
- 令和8年度 地域別最低賃金 答申状況
- 地域別最低賃金の全国加重平均額と引上げ率の推移
- 論点と考え方の整理(2026年6月23日)
- 中央最低賃金審議会 委員名簿
- 目安に関する小委員会 委員名簿
- 厚労省 令和9年度概算要求
- 骨太方針2026
- 骨太方針2025
- 同一労働同一賃金部会(開催一覧)
- 同一労働同一賃金部会報告
- 同一労働同一賃金 省令案要綱等(2026年10月1日施行)
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