経済安全保障
経済安全保障推進法に基づく重要物資のサプライチェーン強靱化には累計2兆5,643億円が充てられてきたが、当初予算は2,425億円にとどまり、残りはほぼすべて補正予算で基金に積まれてきた。2026年6月の改正法(役務支援・医療インフラ・海外事業支援・シンクタンク)の成立を受け、9月に基本方針・基本指針が改定された。令和9年度概算要求では「強く豊かな日本」投資枠を使って当初予算に計上する動きが出ており、補正・基金頼みの構造が変わるかが問われている。
選んだ理由:重要物資のサプライチェーン強靱化は基金と補正予算が中心で、当初予算にはほとんど出てこない。その見えにくさ自体が論点。
中心の会議体・場
- 経済安全保障推進会議 内閣官房(国家安全保障局) · 総理と関係閣僚が経済安全保障の方針を決める閣僚会議。2025年11月の第8回で推進法改正の検討開始が指示された。
- 経済安全保障法制に関する有識者会議 内閣官房経済安全保障法制準備室・内閣府(政策統括官(経済安全保障担当)) · 推進法の基本方針・各基本指針の案に意見を述べ、法改正の提言をまとめる場(座長:青木節子)。分野別の検討会合を下に置く。
- 経済安全保障重点課題検討会議 内閣官房(国家安全保障局)、局長級の関係府省会議 · 重要な物資やインフラのリスク点検の状況を政府横断で確かめる場。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業14件のうち2件。
ブリーフ
対象期間 2026-06-10〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.11 改正法を受け基本方針・基本指針を閣議決定、認定計画は164件・最大助成額約1.79兆円
内閣府・内閣官房
- 基本方針と安定供給確保・基幹インフラ・特定重要技術の各基本指針を一部変更し、「特定海外事業促進基本指針」(OESA)と「調査研究基本指針」(シンクタンク)を新たに閣議決定した。
- 安定供給確保基本指針は、物資の供給に不可欠な役務を支援対象に加え、防災・法執行・防衛などの官公需向けの取組も必要に応じて支援対象とした。
- 内閣府によると、16の特定重要物資に確保した予算は累計2兆5,643億円、9月11日時点で164件・最大助成額合計約1.79兆円の供給確保計画を認定済み。9月18日には国交省が船舶の部品の取組方針を改定し、9月28日には人工呼吸器の支援法人の公募が始まった。
原文:基本方針・基本指針(内閣府) / サプライチェーン強靱化の取組(認定実績) / 特定重要物資の安定供給確保の取組について / 安定供給確保基本指針(9月11日変更)
2026.08.31 令和9年度概算要求:経済安保の供給網支援を「投資枠」で当初予算に要求
経済産業省・内閣府
- 経産省は「経済安全保障・防衛産業基盤強化」に1兆5,472億円(うち投資枠1兆5,363億円)を要求した。令和8年度当初は427億円、令和7年度補正は2,996億円だった。
- 内訳は鉱物資源開発・サプライチェーン安定化推進事業5,293億円、安定供給確保支援事業(重要鉱物)1,390億円(令和8年度当初125億円)、化学品サプライチェーン強靱化事業2,187億円(新規)、蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業415億円(新規)など。「先端技術分野及び重要物資に関する経済安全保障の確保」は別に事項要求とした。
- 内閣府は「経済安全保障等の強化」に776.8億円(令和8年度483.4億円)+事項要求を要求。K Program(総額5,000億円の基金で運営)の強化・拡充は金額を示さない事項要求とした。
原文:経産省 令和9年度概算要求等概要 / 経産省 令和9年度概算要求(一覧) / 内閣府 令和9年度予算概算要求の概要 / 指定基金制度の在り方(K Program 総額5,000億円)
2026.07.30 概算要求基準:「補正予算依存から脱却」、経済安保は複数年度で財源を確保し特別会計で別枠管理
財務省(閣議了解)
- 令和9年度の概算要求基準は、通常の歳出とは別に「強く豊かな日本」投資枠を設け、要求上限を設けず事項要求も認めた。
- 「経済安全保障上特に重要な分野など」は、複数年度で財源を確保したうえで特別会計で別枠管理することを予算編成過程で検討するとした。補助金・基金の自己点検の結果を要求に反映することも求めた。
2026.07.24 有識者会議 第17回:6つの基本方針・基本指針の案を了承、骨太2026の経済安保を報告
内閣官房・内閣府
- 分野別の検討会合(6〜7月)の結果が報告された。サプライチェーンでは役務支援について、支援対象の事業者以外にも外部依存性を聞き取ること、企業に過度な負担をかけない協力要請を求める意見が出た。
- OESAの検討会合では、JBICの新勘定に多額の予算が措置された場合に損失を資本金の範囲内にとどめるなど「歯止めの利く運営」とモニタリングが必要との意見があった。基幹インフラでは医療分野を「準備が整った段階から」施行する案が了承された。
- 骨太2026(7月21日閣議決定)は、汎用品を含む基盤的物資や部素材・資源循環に支援対象を広げ、「経済合理性に委ねると安定供給確保が困難な領域」は国のさらなる支援策を検討するとした。
原文:第17回 議事要旨 / 資料2 骨太の方針・日本成長戦略の概要 / 資料4 安定供給確保基本指針の変更(案)
2026.06.25 有識者会議 第16回:改正法の国会審議を報告、基本方針の変更案を議論
内閣官房・内閣府
- 改正法は6月10日に成立、6月17日に公布された(令和8年法律第38号)。衆議院で修正議決され、附帯決議が付いた。
- 国会では、中東情勢によるナフサ等の需給への影響、AIによるサイバー攻撃、医療分野追加の負担、指定基金の範囲拡大の精査、OESAの対象案件の精査が論点になった。大臣は、指定基金制度は「基金の新設を行うものでなく、予算措置の在り方を決めるものでもない」と答えた。
- 6月11日には重点課題検討会議(第6回)が開かれ、リスクシナリオの多様化と、シンクタンク・官民協議会と連携したリスク点検のサイクルづくりを議論した。
原文:資料1 改正法案の審議について / 第16回 議事要旨 / 第6回 経済安全保障重点課題検討会議 概要
次に来ること
- [2026年12月(予定)] 令和9年度予算の政府案 投資枠や事項要求のうち、経済安保分野にどれだけ当初予算がつくか、特別会計で別枠管理するかが決まる。 · 根拠
- [2026年12月17日まで(予定)] サプライチェーン関係の改正規定が施行 役務支援と努力義務・協力要請の規定は公布後6月以内に施行される。 · 根拠
- [2026年度中(予定)] 総合的な経済安全保障シンクタンクの設置と官民協議会の組織 経済産業研究所に業務を加える形で設ける。人材確保と成果の公表の在り方が課題になっている。 · 根拠
- [2027年12月まで(予定)] 改正法の全面施行 施行は公布から1月〜1年6月以内の段階施行。医療分野は準備が整った段階から施行する。 · 根拠
意見募集中(12件)
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく、工作機械及び産業用ロボットに係る安定供給確保を図るための取組方針(案)に関する意見の公募について 経済産業省 · 締切 10/1
- 永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針改定(案)に関する意見公募について 経済産業省 · 締切 10/1
- インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(入出力装置を含む。)を他人の情報処理の用に供するシステムに用いるプログラムに係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見公募について 経済産業省 · 締切 10/2
- 半導体に係る安定供給確保を図るための取組方針改定(案)に対する意見公募 経済産業省 · 締切 10/4
- 先端電子部品に係る安定供給確保を図るための取組方針改定(案)に対する意見公募 経済産業省 · 締切 10/4
- 人工衛星に係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見公募 経済産業省 · 締切 10/4
- ロケットの部品に係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見公募 経済産業省 · 締切 10/4
- 重要鉱物に係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見公募 経済産業省 · 締切 10/4
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく、蓄電池に係る安定供給確保を図るための取組方針の改正案に対する意見の公募について 経済産業省 · 締切 10/5
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく、航空機の部品に係る安定供給確保を図るための取組方針(案)に関する意見の公募について 経済産業省 · 締切 10/5
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令の一部を改正する政令案に関する御意見の募集について 内閣府 · 締切 10/10
- 経済産業省関係経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく供給確保計画の認定等に関する省令案 経済産業省 · 締切 10/25
e-Gov パブリック・コメントから、件名でこのテーマに振り分けたもの。意見は各案件のページから出せます。
流れ
論点
| 論点 | 立場A | 立場B | いま |
|---|---|---|---|
| お金の出し方:補正・基金か当初予算か | これまでの実績(内閣府の予算表):累計2兆5,643億円のうち当初予算は令和6年度の蓄電池2,300億円と令和8年度の重要鉱物125億円だけで、約2.3兆円は令和4〜7年度の補正予算(1兆358億円→9,172億円→1,981億円→1,692億円)。令和7年度補正の1,692億円のうち1,201億円は船舶(船体の生産能力拡大のため新たに造成した造船業再生基金1,200億円)。 | 概算要求基準(財務省):補正予算依存から脱却し、恒常的な施策は当初予算に計上。経済安保の重要分野は複数年度で財源を確保し特別会計で別枠管理を検討。 | 継続。令和9年度要求で経産省は投資枠に1兆5,363億円を要求したが、中核は事項要求。年末の政府案で決まる。 |
| 支援対象をどこまで広げるか | 骨太2026(内閣):汎用品を含む基盤的物資、部素材、資源循環まで支援対象を拡大し、採算の合わない領域は国のさらなる支援を検討。 | 有識者会議の検討会合の委員:協力要請は企業に過度な負担にならないように。事業者が何をすべきかを分かりやすく示し、予見可能性を高めてほしい。 | 9月11日の指針改定で役務と官公需を支援対象に追加。努力義務・協力要請の規定は施行待ち。 |
| 指定基金の範囲拡大 | 小野田大臣(国会答弁):指定基金制度は基金を新設するものでも予算措置を決めるものでもない。無限定には指定しない。 | 国会(論点整理)・検討会合の委員:実際の指定では精査が必要。明確なミッションに基づくファンディングが重要。 | 改正法で対象の基金を拡大。K Program(総額5,000億円)の強化は令和9年度に事項要求。 |
| OESA(JBIC新勘定による海外事業支援)の歯止め | 内閣府(国会答弁):採算性に不確実性がある事業を実現させる制度。ただし恒常的に赤字が見込まれる事業は対象外。 | OESA検討会合の委員:多額の予算が新勘定に措置された場合、損失を資本金の範囲内にとどめ、モニタリングと専門人材が不可欠。 | 特定海外事業促進基本指針を9月11日に閣議決定。骨太2026はJBICの財務基盤強化を掲げる。 |
| 医療分野の基幹インフラ追加 | 厚労省(国会答弁):施行時点で各地方ブロックに少なくとも1病院、その後3年程度で各都道府県に少なくとも1病院を段階的に指定。 | 基幹インフラ検討会合の委員:支払基金(DX審査支払機構)は早く運用を。一方で医療機関は財政・人員とも厳しく、丁寧に検討を。 | 準備が整った段階から施行する方針。対象病院の指定はこれから。 |
| データセキュリティ | 有識者会議の提言(2026年1月):データセキュリティは今回の改正では検討課題として残した。 | 骨太2026:安全保障上重要な個人機微データの防護に関する法案の早期提出を目指す。 | 国家安全保障局を中心に検討中(第17回の事務局回答)。法案の時期は示されていない。 |
内閣府「サプライチェーン強靱化の取組について」の予算表、経済安全保障法制に関する有識者会議 第16回資料1・第17回議事要旨、骨太の方針2026(第17回資料2)、令和9年度概算要求基準による。造船業再生基金は国交省資料による。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
経済安全保障法制に関する有識者会議
名簿の時点 2026年6月25日改正の構成員名簿(全18人のうち15人を掲載。座長は第16回議事要旨による)
- 青木 節子 座長 千葉工業大学 審議役・特別教授
- 阿部 克則 学習院大学法学部 教授
- 上山 隆大 政策研究大学院大学 客員教授
- 大橋 弘 東京大学大学院経済学研究科 教授
- 兼原 信克 公益財団法人笹川平和財団 理事
- 北村 滋 北村エコノミックセキュリティ 代表
- 小柴 満信 Cdots合同会社 共同創業者
- 角南 篤 公益財団法人笹川平和財団 理事長
- 土屋 大洋 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 教授
- 畠山 一成 日本商工会議所 常務理事
- 羽藤 秀雄 住友電気工業株式会社 代表取締役 副社長
- 原 一郎 日本経済団体連合会 専務理事
- 松本 洋一郎 東京大学 名誉教授
- 三村 優美子 青山学院大学 名誉教授
- 渡井 理佳子 慶應義塾大学大学院法務研究科 教授
お金
このテーマに束ねた14事業。令和7年度当初 24.2億円 → 令和8年度要求 38.2億円。
| 事業 | 府省 | 当初 | 要求 |
|---|---|---|---|
| 重要技術総合管理事業 | 経済産業省 | 18.5億円 | 18.5億円 |
| 経済安全保障の確保の推進に必要な経費 | 内閣府 | 5.4億円 | 8.3億円 |
| 経済安全保障上の重要技術に関する調査研究・流出防止策等の実施 | 内閣府 | 0.32億円 | 4.8億円 |
| 経済安全保障政策専門員等経費 | 外務省 | 0円 | — |
| 蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業費 | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援事業(電子部品) | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援事業(LNG) | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済安全保障の強化のための船舶のサプライチェーン強靱化 | 国土交通省 | 0円 | 1.4億円 |
| 経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靱化事業(永久磁石) | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済安全保障リスク点検調査経費 | 国土交通省 | 0円 | 0.20億円 |
| 経済安全保障重要技術推進費 | 内閣府 | 0円 | 5.0億円 |
| 経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靱化事業(人工衛星) | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靭化事業(無人航空機) | 経済産業省 | 0円 | — |
| 経済安全保障の確保に資するサプライチェーンの強靱化事業(ロケットの部品) | 経済産業省 | 0円 | — |
注目点
- 令和9年度政府予算案(2026年12月予定)で、経済安保分野の投資枠・事項要求にいくら当初予算がつき、特別会計で別枠管理されるか。
- 当初予算化が進んでも、年度末の補正予算で基金への積み増しが続くかどうか(令和7年度補正は物資支援に1,692億円)。
- 改正法の段階施行(サプライチェーン関係は2026年12月17日まで)と、役務の特定重要物資への追加指定があるか。
- 2026年度中のシンクタンク設置と官民協議会の立ち上げ、医療分野の対象病院の指定の進み方。
- 個人機微データ防護法案が次の国会に出るか。
出典
- 経済安全保障法制に関する有識者会議(令和4年度〜)
- 経済安全保障推進会議・重点課題検討会議
- サプライチェーン強靱化の取組(内閣府)
- 【制度概要】サプライチェーン強靱化の取組について(予算表)
- 特定重要物資の安定供給確保の取組について(2026年9月11日時点)
- 基本方針・基本指針(内閣府)
- 改正法の概要
- 令和9年度予算の概算要求に当たっての基本的な方針
- 経産省 令和9年度概算要求等概要
- 内閣府 令和9年度予算概算要求の概要
- 造船業再生基金事業(国交省)
- 経済安全保障重要技術育成プログラム
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