不登校・いじめ・こどもの居場所
小・中学校の不登校は約35万4千人、いじめの重大事態は1,405件と、いずれも令和6年度に過去最多となった。文科省は校内外の教育支援センターで学ぶ不登校児童生徒向けに「特別の教育課程」を新しく設ける制度設計を進めており、こども家庭庁は首長部局を軸に、学校の外で支える仕組みを広げようとしている。問われているのは、学校の中と外のどちらで学びと居場所を保障するのか、重大事態調査の実効性をどう担保するのか、そして人と予算をどこまで積むのかである。
選んだ理由:いじめ・不登校(文科省)、居場所・ヤングケアラー(こども家庭庁)、ひきこもり(厚労省)。令和8年度要求で新規事業が複数。
中心の会議体・場
- 中央教育審議会 教育課程部会 不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ 文部科学省 · 校内外の教育支援センター等に通う不登校児童生徒を対象に、特別の教育課程(いわゆる「2階」)の対象・授業時数・評価・実施体制を設計する場。
- 誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策推進本部 文部科学省 · COCOLOプラン(R5.3)の進捗と、問題行動・不登校調査の結果を省内で確認する本部。
- いじめ防止対策に関する関係省庁連絡会議 こども家庭庁・文部科学省(警察庁・総務省・法務省・経産省等) · こども家庭庁支援局長と文科省初中局長を共同議長に、いじめの緊急対応を府省横断で決める場。
- いじめ防止対策協議会 文部科学省・こども家庭庁 · 学校・職能団体などの有識者から、いじめ防止対策推進法に基づく取組状況の把握と検証について意見を聴く場(年度ごとに設置)。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業11件のうち10件。
ブリーフ
対象期間 2026-08-01〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.25 教育課程企画特別部会 第18回:次期学習指導要領の審議まとめ(案)に不登校の特別の教育課程を盛り込む
文部科学省
- 審議まとめ(案)は、特別の教育課程を新しく設ける対象の1つ目に「校内外の教育支援センター等に通う不登校児童生徒」を挙げた。
- 理由として、学びの多様化学校へ移るには転校が必要なこと、下学年の学び直しをしても在籍学年の基準で評価されて「1」や「-」になり、意欲が下がるという指摘があることを示した。
- 10月5日の教育課程部会(第136回)は「審議まとめ(案)」を議題にしている。
原文:教育課程企画特別部会(第18回)配付資料 / 審議まとめ(案)1/4 / 教育課程部会(第136回)開催案内
2026.09.03 委託調査研究:発達障害等のある児童生徒の不登校率は13.26%
文部科学省
- 回答した432校で、発達障害等のある児童生徒の不登校率は13.26%だった。全児童生徒の3.71%の約3.6倍にあたる。中学校では25.13%だった。
- 通常の学級での支援や合理的配慮を組織的に検討すること、校内委員会の機能、保護者との連携、分かりやすい授業づくりなど6項目が、不登校率の低さと統計的に有意に関連した。
- 報告書のファイルは8月21日付、事例集は9月3日付で掲載された。回答校の地域に偏りがある可能性に注意が必要と、報告書自身が書いている。
原文:文科省 特別支援教育・不登校担当の校内連携体制の在り方に関する調査研究 / 報告書 / リシード記事(2026-09-28)
2026.08.31 令和9年度概算要求:首長部局のいじめ・不登校支援に6.4億円、居場所・体験の基盤事業を新規に7億円
こども家庭庁
- 「地域全体でいじめ・不登校等に向き合う体制づくり」として6.4億円を要求した。内訳は、こどもの悩み相談モデル3.6億円、地域における不登校のこどもへの切れ目ない支援1.8億円、首長部局によるいじめ解消モデルの全国展開0.6億円など。
- いじめ調査アドバイザー(0.1億円)は、重大事態調査で委員の第三者性の確保が課題となり、調査の開始が遅れる問題に対応するものと説明している。
- 新規の「こどものウェルビーイング基盤整備事業(居場所・体験創出基盤事業)(仮称)」として7億円を要求した。
原文:令和9年度予算概算要求の概要(主な新規・拡充事業) / 令和9年度予算概算要求のポイント / こども家庭庁 予算ページ
2026.08.25 令和9年度概算要求:不登校・いじめ対策等に122億円(前年度100億円)
文部科学省
- 校内外の教育支援センターの機能強化等は25億円(前年度12億円)。校内教育支援センター支援員の補助対象を4,000校から7,000校に、アウトリーチ支援を130人から300人に増やす。
- スクールカウンセラー(SC)・スクールソーシャルワーカー(SSW)は95億円(前年度88億円)。いじめ・不登校対策の重点配置をSCは9,000校(←7,000校)、SSWは6,500校(←5,000校)に増やす。
- いじめ・自殺予防対策は2億円(前年度0.1億円)で、ネットいじめなど学校だけでは対応が難しい事案について自治体の伴走支援を行う。
原文:令和9年度概算要求主要事項(初等中等教育局) / 令和9年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧
2026.08.04 不登校WG 取りまとめ(案)を公表(6/29の第9回で議論、会議後に修正)
文部科学省
- 対象は当面、義務教育段階とする。高等学校段階は、運用の成果を踏まえて将来検討する。
- 授業時数は一律に定めず、校長が標準授業時数を下回る柔軟な設定をできるようにする。個別の指導計画は本人や保護者の意向を踏まえて作り、計画の写しを添付すれば指導要録への記入に替えられる運用を求めた。
- 主な実施場所は、校内教育支援センターと、教育委員会が管理・運営する校外教育支援センターとした。「居場所機能」の活動は引き続き教育課程の外の扱いとする。施行は令和10年度からの先行実施を目指す。
原文:WG取りまとめ(案)※会議後修正 / WG 第9回 配付資料 / WGページ
次に来ること
- [2026-10-05] 中教審 教育課程部会(第136回):次期学習指導要領の審議まとめ(案) 不登校の特別の教育課程を含む審議まとめ(案)が部会にかけられる。YouTube Liveで配信される予定。 · 根拠
- [2026年10月下旬(例年)] 令和7年度 問題行動・不登校等調査の結果公表 R6調査は2025-10-29、R5調査は2024-10-31に公表された。不登校の増加率が鈍った傾向(R5 15.9%→R6 2.2%)が続くかが注目点。 · 根拠
- [2026年12月(予定)] 令和9年度予算の政府案 文科省122億円・こども家庭庁6.4億円(いじめ・不登校の体制づくり)の要求が、どこまで認められるか。 · 根拠
- [令和8年度末(予定)] 学習指導要領の改訂と「運用の手引き」の作成 改訂は年度末予定とされている。WGは令和10年度から実施できるよう、周知期間を考えて手引きを作る必要があるとした。 · 根拠
流れ
論点
| 論点 | 文科省・中教審(WG取りまとめ案R8.8、審議まとめ案R8.9、R9概算要求 ほか) | 別の立場(出典は各行) | いま |
|---|---|---|---|
| 不登校の子の学びと居場所を、誰がどこで支えるか | 教育委員会が管理・運営する校内外の教育支援センターを主な実施場所として、特別の教育課程を組む。居場所機能の活動は教育課程の外に置き、NPOなどは連携先とする。 | こども家庭庁(R9要求):学校にも地域社会にもつながれていない不登校のこどもについて、首長部局が「こどもの育ち」の観点から支える仕組みを実証する(1.8億円)。 | 並走している。文科省のR9資料は両庁を「連携して対応」と整理しているが、対象をどう分けるかは明示されていない。 |
| 学び直しをどう評価するか | 個別の指導計画に基づいて評価し、計画の写しを添付すれば指導要録への記入に替えられるようにする。特例の下での評価が高校入試で適切に勘案されることを目指す。 | 現行制度(WG取りまとめ案の課題整理):在籍学年の教育課程に基づいて評価するため、下学年の学び直しをしても「1」や「-」になり、意欲が下がるとの指摘がある。 | 方向性は整理済み。具体的な運用は「運用の手引き」で詰める。 |
| 高校段階を対象にするか | 当面は義務教育段階に限る。高校は、学校設定科目の単位上限の引き上げなど通常の教育課程の柔軟化で対応し、特例の成果を見て将来検討する。 | R6調査通知:高校の不登校生徒は約6万8千人で、前年度から減少した。R9要求では、不登校経験者などの受け皿として定時制・通信制の振興を挙げている。 | 未着手(将来の検討課題)。 |
| いじめ重大事態調査の実効性 | ガイドラインを改訂した(R6.8)。こども家庭庁は、第三者性の確保で調査の開始が遅れる問題に対し、いじめ調査アドバイザーによる助言と研修を行う(R9要求0.1億円)。 | いじめ自殺の遺族(東洋経済 2025-11-26):学校が第三者委員会の結論を否定しても是正できないとして、罰則規定の追加を含む法改正を求める署名を提出した。 | 継続中。参院文教科学委員長が改正の機運づくりに言及している。確認できた範囲では、改正案は提出されていない。 |
| SNSでの暴力動画拡散と加害への対応 | 犯罪に当たり得る暴力行為やいじめは警察と連携し、懲戒や出席停止を含めて毅然と対応する。見過ごされた事案がないか緊急に確認する(R8.1.30通知)。 | 関係省庁連絡会議の資料2(R8.1.16):動画の投稿・拡散そのものが誹謗中傷など新たな人権侵害を生むおそれがあるとして、法務省も加わって相談窓口を一覧にし、周知する。 | 対応中。R9要求で、ネットいじめなど学校だけでは難しい事案への伴走支援(2億円の内数)を計上した。 |
| 支援人材と受け皿は足りるか | R9要求で、SC・SSWに95億円(前年度88億円)、校内センター支援員の補助対象を4,000校から7,000校に、アウトリーチを130人から300人に増やす。 | 実態(R6調査通知・推進本部資料):専門的な相談や指導を受けていない不登校児童生徒は約13万6千人。校内教育支援センターの設置率は58.7%(R7.6)。 | 要求段階。12月の予算政府案で規模が決まる。 |
| 発達障害と不登校の重なり | WG:障害や特異な才能のある子もいるため、「2階シート」などで複数の特例を俯瞰し、一貫した支援にする。 | 文科省の委託調査(R8.8〜9公表):発達障害等のある児童生徒の不登校率は13.26%(全体3.71%)。通常学級での組織的な合理的配慮などが、不登校率の低さと関連していた。 | 調査は432校の回答で、偏りへの留意が付いている。政策への反映はこれから。 |
立場Aは文科省・中教審の資料。こども家庭庁の要求資料と通知・連絡会議資料は、それぞれの行に出典名を書いた。遺族の主張は報道(東洋経済オンライン)による。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
中央教育審議会 教育課程部会 不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ
名簿の時点 令和8年4月30日(名簿ページの日付)
- 伊藤 美奈子 主査 神戸女子大学教授、奈良女子大学名誉教授
- 黒沢 正明 主査代理 豊島区教育委員会事務局教育部教育センター不登校対策スーパーバイザー
- 我妻 聡美 蔵王町立円田中学校校長
- 猪股 典生 青森市教育委員会事務局指導課主幹兼主任指導主事
- 今村 久美 認定特定非営利活動法人カタリバ代表理事
- 金子 京子 尾道市教育委員会学校教育部教育指導課長
- 菊井 雅志 京都府教育庁指導部学校教育課総括指導主事
- 工藤 宏敏 福岡県教育庁教育監
- 貞広 斎子 千葉大学副学長・教育学研究院教授
- 鷲見 佐知 岐阜市立岐阜特別支援学校校長
- 藤田 修史 千代田区立麹町中学校校長
お金
このテーマに束ねた11事業。令和7年度当初 105億円 → 令和8年度要求 140億円。
| 事業 | 府省 | 当初 | 要求 |
|---|---|---|---|
| いじめ対策・不登校支援等総合推進事業 | 文部科学省 | 93.7億円 | 118億円 |
| こどもの居場所づくりコーディネーター配置等支援事業 | こども家庭庁 | 8.8億円 | 6.6億円 |
| ひきこもりに関する地域社会に向けた普及啓発と情報発信の実施 | 厚生労働省 | 1.2億円 | 1.2億円 |
| ひきこもり支援者支援事業 | 厚生労働省 | 0.32億円 | 0.32億円 |
| ひきこもり支援実施機関支援力向上研修 | 厚生労働省 | 0.19億円 | 0.19億円 |
| 地域におけるいじめ防止対策の体制構築の推進 | こども家庭庁 | 0.14億円 | 7.3億円 |
| ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業 | こども家庭庁 | 0.11億円 | 0.11億円 |
| 地域における不登校のこどもへの切れ目ない支援事業 | こども家庭庁 | 0.02億円 | 2.8億円 |
| ひきこもり支援推進事業(生活困窮者就労準備支援事業費等補助金関係) | 厚生労働省 | 0円 | — |
| こどもの居場所づくり支援体制強化事業 | こども家庭庁 | 0円 | 4.1億円 |
| 民間企業等による自治体と連携したヤングケアラーへの食支援 | こども家庭庁 | 0円 | 0.20億円 |
注目点
- 10月5日の教育課程部会で、不登校の特別の教育課程を含む審議まとめ(案)がどう扱われるか。
- 10月下旬に例年公表される令和7年度の問題行動・不登校等調査で、不登校の増加の鈍化と、いじめ重大事態の件数がどうなるか。
- 12月の令和9年度予算政府案で、文科省の校内外センター強化(25億円要求)と、こども家庭庁の首長部局モデル(6.4億円要求)がどこまで残るか。
- 校内外の教育支援センターが満たすべき要件の法令化と、「運用の手引き」の中身(R10からの先行実施に向けて)。
- いじめ防止対策推進法の改正を求める遺族の署名を受けて、国会で議員立法の動きが出るか。
出典
- 不登校WG ページ(開催状況・名簿)
- 不登校WG 取りまとめ(案)※会議後修正(R8.8.4)
- 不登校WG 委員名簿
- 教育課程企画特別部会(第18回)配付資料(審議まとめ案)
- 教育課程企画特別部会(第17回)配付資料(審議まとめ素案)
- 教育課程部会(第136回)開催案内
- 学習指導要領等の改訂に関するスケジュール(R8.7.8)
- 令和9年度概算要求主要事項(初等中等教育局)
- 令和9年度文部科学省 概算要求等の発表資料一覧
- こども家庭庁 令和9年度予算概算要求の概要(主な新規・拡充事業)
- こども家庭庁 令和9年度予算概算要求のポイント
- 令和6年度 問題行動・不登校等調査結果に関する通知(R7.10.29)
- 令和6年度調査結果の概要(不登校抜粋版)
- 不登校対策推進本部(第5回)配付資料
- 校内教育支援センター設置率(R7.6)
- いじめ防止対策に関する関係省庁連絡会議(第6回)
- 同 議事概要
- 同 資料2 緊急対応
- いじめ防止対策協議会(令和7年度)第1回 配付資料
- いじめ防止対策協議会の設置について(R8.2.10)
- SNS上の暴力行為等の動画拡散を受けた緊急の対応等(概要)
- いじめの重大事態の調査に関するガイドライン(R6.8改訂版)
- 自殺対策基本法の一部を改正する法律(参議院法制局)
- 特別支援教育・不登校担当の校内連携体制の在り方に関する調査研究
- 東洋経済オンライン:形骸化するいじめ防止法、改正求める6万筆の重み
- こどもの居場所づくり(こども家庭庁)
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