スタートアップ支援
「スタートアップ育成5か年計画」(2022年)は残り2年となり、政府は2026年5月の「スタートアップ総力創出パッケージ」と7月の「日本成長戦略」で、スケールアップ資金・ディープテックの政府調達・地域の3本柱に組み替えた。投資額10兆円の目標に対し2025年の実績は7,613億円(速報値)にとどまり、成長資金の出し手の拡大、税制、東京・渋谷のグローバル・スタートアップ・キャンパス(GSC)拠点の規模と費用が問われている。
選んだ理由:7府省。ディープテック中心で、令和8年度はグローバル拠点など新規事業が立ち上がる一方、要求総額は減る。
中心の会議体・場
- 日本成長戦略会議 スタートアップ政策推進分科会 内閣官房(日本成長戦略本部事務局) · 分科会長はスタートアップ担当大臣。5か年計画を強化する「スタートアップ総力創出パッケージ」を取りまとめた場。
- GSC構想フラッグシップ拠点整備に関する有識者会議 内閣府(科学技術・イノベーション推進事務局) · グローバル・スタートアップ・キャンパスの中核拠点(渋谷区・目黒区の国有地)の施設整備の基本計画に助言する。
- 規制改革推進会議 スタートアップ・イノベーション促進ワーキング・グループ 内閣府(規制改革推進室) · 銀行等の議決権保有制限(独禁法11条)や株式対価M&Aなど、スタートアップの資金調達・出口に関わる規制の見直しを審議する。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業23件のうち3件。
ブリーフ
対象期間 2026-07-01〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.04 GSCフラッグシップ拠点の基本計画を公表:上限3.28万㎡から段階整備、設計は2026〜28年度
内閣府
- 渋谷区・目黒区の国有地(敷地約2.6万㎡)に整備。全体構想を描いたうえで、まず必要な規模(延べ32,800㎡が上限)から着手し、活動ニーズに応じて「アジャイルに拡張」する。
- 設計は国が設計事業者と運営事業者のチームに発注、建設は国が公募で発注、運営は新設の認可法人「先端技術研究成果活用推進機構」が担う。
- スケジュール案は、2026〜2028年度に基本設計・実施設計、2029年度以降に建設工事。9月18日には基本設計等業務の手続き開始を公示した。
原文:基本計画(概要) / 基本計画(本文) / GSC構想ページ(新着・調達情報)
2026.08 令和9年度概算要求:医療機器・創薬スタートアップに大型要求、GXディープテックは減額
経済産業省・内閣府
- 経産省は「医療機器スタートアップ等エコシステム強化事業」に1,000億円(R8当初38億円)、「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」に320億円(新規)を「強く豊かな日本」投資枠で要求。投資枠の「スタートアップ支援事業」は約74.9億円。
- 「GX分野のディープテック・スタートアップ支援事業」は100億円(R8当初185億円)に減額。「経済安全保障上重要なスタートアップへの出資・債務保証」「スタートアップの製品・サービスの社会実装・市場導入の推進」は事項要求。
- 内閣府は「グローバル・スタートアップ・アクセラレーションプログラム」28.75億円(投資枠)、GSC構想の推進4.91億円+事項要求、政府調達起点の社会実装支援を事項要求。
- 経産省の税制改正要望には「世界に伍するスタートアップエコシステムの形成に向けた措置の検討」を盛り込んだ(内容は「必要な措置を図る」との書き方)。
原文:経産省 R9概算要求等概要 / 経産省 R9税制改正要望(概要) / 内閣府 R9概算要求の概要
2026.08.19 GSC拠点整備有識者会議 第3回:改正法成立を受け基本計画案を審議
内閣府
- 事務局が、改正科学技術・イノベーション創出活性化法(令和8年法律第59号)で認可法人「先端技術研究成果活用推進機構」の規定が整ったと報告した。施行は公布から9か月以内で、政令を準備中。
- 国会審議で、機構への国有地・建物の貸付が政府案の「無償」から「有償」に修正された。付帯決議は、拠点の規模を文科省の令和6年報告書の案以下から始めて建設を抑えること、貸付料の妥当性、情報公開などを求めた。
- 基本計画案は、この付帯決議を踏まえて段階的に整備する方針と、2026〜2028年度に設計、2029年度以降に建設するスケジュールを示した。
2026.07.21 「日本成長戦略」閣議決定:総力創出パッケージを成長戦略に格上げ、年度内の宿題を明記
内閣
- スタートアップの章で、5か年計画を「抜本強化」する3本柱(スケールアップ、ディープテック、地域)のパッケージを実行すると明記。KPIは投資額10兆円(2027年度)、ユニコーン100社、スタートアップ10万社を据え置き、2025年の投資額は7,613億円(速報値)と記した。
- 2026年度内の宿題として、政府系金融機関等からの資金供給強化策、VC向け「推奨・期待される事項」の見直し、銀行等のLP出資にかかる独禁法の議決権保有期間(10年)の見直しを掲げた。
- SBIRを抜本強化して「戦略製品・技術等政府実装加速化プログラム」を創設し、研究開発から売上計上できる委託契約での試験導入まで一貫支援する。スタートアップの政府調達向け契約指針も策定する。
- 同じ日に「骨太の方針2026」も閣議決定された。前後して7月17日には、GSCの運営法人を設ける改正科学技術・イノベーション創出活性化法が公布された。
原文:日本成長戦略(本文) / 骨太の方針2026 / 改正法の公布(新日本法規)
次に来ること
- [2026年12月] 令和9年度予算政府案・税制改正大綱 政府調達の新枠組みやスタートアップへの出資・債務保証など、事項要求の中身と規模が決まる。ミニマムタックス強化への「必要な措置」が大綱に入るかも焦点。 · 根拠
- [2027年1月] 極めて高い水準の所得への課税強化(いわゆるミニマムタックス)が始まる 分科会で郷治委員が、2027年1月からの強化を前に経営株主の9割超が見直しを求める調査結果を示した。 · 根拠
- [2027年3月まで] 独禁法11条(銀行等の議決権保有制限)の見直しの結論 規制改革答申は、LP出資の例外期間(10年)の撤廃・延長を「令和8年度結論、結論を得次第速やかに措置」とした。 · 根拠
- [2027年4月まで] 改正科学技術・イノベーション創出活性化法の施行と機構設立 施行は公布(2026年7月17日)から9か月以内で、政令で定める。先端技術研究成果活用推進機構の設立と役員体制が次の節目になる。 · 根拠
- [2027年春頃] 5か年計画の「その先」をめぐる提言 分科会で小川委員(経団連)が、2027年春頃をめどに5か年計画後に向けた提言をまとめる予定だと述べた。 · 根拠
流れ
論点
| 論点 | 見直し・拡大を求める側 | 慎重・現状維持の側 | いま |
|---|---|---|---|
| ミニマムタックス強化とスタートアップ | 郷治委員(UTEC・VC協会会長):経営株主1,387人への調査で96%が企業価値向上や国内創業の意欲がそがれると回答。スタートアップには特段の措置を求めた(分科会第4回)。 | 財務省:「1億円の壁」を是正する制度で、NISAやスタートアップへの再投資分の非課税は残した。岡田委員も「軽々な議論は避けるべき」とした(同)。 | パッケージは効果を検証したうえで「税制を含む…必要な措置について検討」と記した。経産省はR9税制改正要望に「必要な措置」を盛り込み、決着は年末の大綱に持ち越し。 |
| 銀行等によるVC出資と独禁法11条 | 都銀懇話会・規制改革答申:LPは議決権を行使できず、10年の期限が存続期間10年超のファンドへの出資を妨げている。期限の撤廃・延長と、現物分配の例外化を求める。 | 公正取引委員会:規定の趣旨は事業支配力の過度な集中の防止。現行でも認可で10年超の保有ができ、不認可の例はない(R2〜R6の認可は計9件)と説明した(WG第8回)。 | 答申で「令和8年度結論、結論を得次第速やかに措置」。日本成長戦略も2026年度内の見直しを明記している。 |
| KPIと成果の測り方 | 日本成長戦略・パッケージ:投資額10兆円、ユニコーン100社の目標を据え置き、補完データも使って多角的に検証する。スタートアップの付加価値はGDPの約4%とした。 | 行政事業レビューの有識者:ディープテック基金の短期指標「資金調達率5割」がユニコーン創出につながるか、ロジックを検証し直すべきだと指摘した。国会もGSCにディープテックの特性に合うKPIの設定を求めた。 | 2025年の投資額は7,613億円(速報値)で2021年(8,876億円)を下回る。目標は変えず、5か年計画の期限(2027年度)後の検証に持ち越し。 |
| GSC拠点の規模 | 政府(文科省の令和6年度報告書、基本方針):世界のトップ人材を引きつける世界最高水準の拠点をつくる。 | 国会の付帯決議:報告書の案以下の規模から始めて建設を抑え、必要に応じて見直す。地方との連携や民業を圧迫しないことも求めた。 | 基本計画は延べ32,800㎡を上限として必要な規模から着手し、段階的に拡張する形にした。建設は2029年度以降。 |
| 機構への国有地貸付と費用の透明性 | 当初の政府案:国が土地・建物を機構に無償で貸し付ける。 | 国会修正:貸付を有償とし、補てんで費用が外から見えるようにする。参院の付帯決議は、有償化で生じる費用に必要な財政措置を講じるよう求めた。 | 有償貸付で成立。基本計画は、機構の業務に支障がないよう財政支援が必要だと注記した。R9要求はGSC推進4.91億円+事項要求。 |
分科会第4回の議事要旨(2026-05-20)、規制改革WG第8回の公取委資料(2026-01-28)、規制改革答申(2026-06-29)、行政事業レビュー公開プロセス結果(2026-06-19)、GSC拠点整備有識者会議第3回の議事要旨(2026-08-19)、基本計画(2026-09)による。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
日本成長戦略会議 スタートアップ政策推進分科会
名簿の時点 2026-01-20 議長決定(分科会長の氏名は2026-05-20 第4回議事要旨による)
- 城内 実 分科会長 スタートアップ担当大臣
- 芦澤 美智子 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 准教授
- 井上 智子 Red Capital株式会社 代表取締役マネージングパートナー
- 岡田 光信 株式会社アストロスケールホールディングス 創業者兼CEO
- 小川 尚子 日本経済団体連合会 産業技術本部長
- 小澤 隆生 Boost Capital株式会社 代表取締役
- 郷治 友孝 株式会社東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)代表取締役社長CEO/日本ベンチャーキャピタル協会 会長
- 田中 邦裕 さくらインターネット株式会社 代表取締役社長
- 藤野 英人 レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長
- 室伏 謙一 室伏政策研究室 代表 政策コンサルタント
- 米良 はるか READYFOR株式会社 代表取締役CEO
GSC構想フラッグシップ拠点整備に関する有識者会議
名簿の時点 2026-01-13 設置決定の別紙(座長・座長代理は2026-08-19 第3回議事要旨による)
- 伊香賀 俊治 座長 慶應義塾大学 名誉教授/一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター 理事長
- 北野 宏明 座長代理 ソニーグループ株式会社 チーフテクノロジーフェロー
- 秋枝 静香 株式会社サイフューズ 代表取締役
- 上野 武 千葉大学 名誉教授/一般社団法人キャンパスとまち計画研究所 代表理事
- 川添 善行 東京大学 生産技術研究所 准教授
- 藏見 康仁 日本政策投資銀行 アセットファイナンス部 次長
- 宮園 浩平 総合科学技術・イノベーション会議 常勤議員
お金
このテーマに束ねた23事業。令和7年度当初 363億円 → 令和8年度要求 293億円。
| 事業 | 府省 | 当初 | 要求 |
|---|---|---|---|
| GX分野のディープテック・スタートアップ支援事業 | 経済産業省 | 300億円 | 185億円 |
| スタートアップ支援事業(うちディープテック・スタートアップの起業・経営人材確保等支援事業) | 経済産業省 | 15.5億円 | 20.0億円 |
| スタートアップ支援事業(うち医工連携グローバル展開事業) | 経済産業省 | 13.7億円 | 16.0億円 |
| 医療系ベンチャー育成支援事業 | 厚生労働省 | 9.3億円 | 10.1億円 |
| スタートアップ支援事業(うち次世代ヘルステック・スタートアップ育成支援事業) | 経済産業省 | 6.0億円 | 8.5億円 |
| スタートアップ支援事業(うちユニコーン創出支援事業) | 経済産業省 | 5.0億円 | 5.3億円 |
| 工業所有権研究等委託費/(スタートアップ知財支援基盤整備事業) | 特許庁 | 3.7億円 | 3.8億円 |
| 沖縄型スタートアップ拠点化推進事業 | 内閣府 | 3.6億円 | 5.8億円 |
| スタートアップ創出型萌芽的研究開発支援事業 | 総務省 | 3.0億円 | 3.0億円 |
| スタートアップ支援事業(うちフェムテック等サポートサービス実証事業) | 経済産業省 | 1.5億円 | — |
| イノベーション創出のための環境スタートアップ研究開発支援事業 | 環境省 | 0.99億円 | 3.3億円 |
| 沖縄県内の金融機関等のスタートアップ支援に係る目利き力向上事業 | 内閣府 | 0.23億円 | 0.33億円 |
| 地域の社会課題解決に資する起業者展開推進事業 | 内閣府 | 0.18億円 | 0.22億円 |
| ディープテック・スタートアップ支援事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| 起業家等の海外派遣・シリコンバレー拠点形成事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| ヘルスケアスタートアップエコシステム強化事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| スタートアップのグローバル化強化事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| ディープテック・スタートアップへの事業開発支援事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| 大企業等のスタートアップ連携・調達加速化事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
| グローバル・スタートアップ・アクセラレーションプログラム | 内閣府 | 0円 | 27.8億円 |
| グローバル・スタートアップ・キャンパスのフラッグシップ拠点の整備 | 内閣府 | 0円 | 3.3億円 |
| アグリテック系スタートアップ重点化支援対策 | 農林水産省 | 0円 | — |
| グローバル・スタートアップ創出支援事業 | 経済産業省 | 0円 | — |
注目点
- 12月の予算政府案で、政府調達の新枠組み(戦略製品・技術等政府実装加速化プログラム)と、スタートアップへの出資・債務保証の事項要求にいくら付くか。
- 税制改正大綱で、2027年1月に始まるミニマムタックス強化に対し、スタートアップ経営株主向けの措置が入るか。
- 公取委が年度内に、銀行等のLP出資の10年期限を撤廃するか延長するか。現物分配を例外とする措置も同時に決まるか。
- 改正法の施行(2027年4月まで)で、先端技術研究成果活用推進機構のトップ人事と国有地の貸付料がどう決まるか。
- 5か年計画の期限(2027年度)を前に、10兆円目標の検証と「その先」の計画づくりがいつ、どの会議体で始まるか。
出典
- スタートアップ総力創出パッケージ(2026-05-20)
- スタートアップ政策推進分科会 第4回 議事要旨
- スタートアップの公共調達の加速に向けた運用指針(素案)
- 日本成長戦略(2026-07-21)
- 規制改革推進に関する答申(2026-06-29)
- 規制改革WG第8回 公正取引委員会提出資料
- 行政事業レビュー公開プロセス結果(ディープテック基金)
- GSC拠点整備有識者会議 第3回 議事要旨
- GSCフラッグシップ拠点整備に関する基本計画
- 経産省 令和9年度概算要求等概要
- 経産省 令和9年度税制改正要望(概要)
- 内閣府 令和9年度予算概算要求の概要
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