生成AI・AIの利活用とリスク
2025年のAI法で首相をトップとする人工知能戦略本部ができ、基本計画は半年で第Ⅱ期に改定された。政府は「AXを行政から」と利活用・国産開発に大きく予算を寄せる一方、エージェント型AIが消費者の意思決定に与える影響、フロンティアAIのサイバー悪用、個人データのAI学習利用など、リスク側の論点は複数の会議体に分かれて並走している。
選んだ理由:12府省に事業がある。AI基盤と半導体の大型研究開発が経産省に集中し、各省の業務へのAI導入は小粒。大型事業は基金や補正予算に移り、当初予算の要求には出てこない。
中心の会議体・場
- 人工知能戦略本部 内閣府(本部長:内閣総理大臣) · AI法に基づき人工知能基本計画の案やAI指針を決める政府全体の司令塔。
- 人工知能戦略専門調査会 内閣府 · 本部の下で有識者が基本計画・領域別戦略の素案を審議する場(座長:松尾豊)。
- AIネットワーク社会推進会議・AIガバナンス検討会(経産省AI事業者ガイドライン検討会と合同) 総務省・経済産業省 · 事業者向けソフトローである「AI事業者ガイドライン」を改定する場。
- 人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会 内閣府 消費者委員会 · 対話型・エージェント型AIが消費者の意思決定に与える影響と対応策を整理する場。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業39件のうち11件。
ブリーフ
対象期間 2026-07-01〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.18 令和9年度概算要求のAI関連予算を公表:2兆9,392億円+事項要求26件
内閣府
- 令和9年度要求は約2兆9,392億円+事項要求26件(新規132件・継続193件)。令和8年度当初予算は5,027億円(新規20件・継続129件)。
- 大口は経産省のマルチモーダル基盤モデル開発(約8,964億円)、中小企業等のAX促進(約3,746億円、新規)、文科省のAI for Science(約3,789億円)、内閣府のバーティカルAI(約1,009億円、新規)。
- ガバメントAI「源内」(デジタル庁)、GENIAC(経産省)、防衛の意思決定AI(防衛省)は事項要求で金額未確定。
原文:令和9年度概算要求(AI関連予算) / AI関連予算の推移
2026.09.09 AI消費者問題専門調査会 第9回:「検討状況(案)」で環境整備の必要性を提示
消費者委員会
- AIが意思決定の材料提供から意思決定の代替に進みつつあるとし、迎合性(シコファンシー)・擬人化・長期対話による心理特性の推定などをリスクの態様として整理。
- 消費者が影響を自覚できず苦情が相談現場に上がらない可能性、AIの回答と相談員の回答が食い違うトラブルの増加を指摘し、「環境整備について、具体的に検討する必要がある」とした。
- 9月18日の第10回では、海外主要法域の制度的対応に関する委託調査の報告と、落合孝文弁護士へのヒアリングを実施。
原文:第9回 資料1 検討状況(案) / 第9回 会議ページ / 第10回 会議ページ
2026.08.07 AIネットワーク社会推進会議 第33回(メール審議):「AIによるリスク」検討WGを設置
総務省・経済産業省
- 8月7日〜13日のメール審議で、総務省AIガバナンス検討会と経産省AI事業者ガイドライン検討会の下に「AIによるリスク」の検討ワーキンググループを置くことを決定。
- 検討対象は3月31日公表のAI事業者ガイドライン第1.2版の別添「AIによるリスク」の更新。座長は中川裕志・東京大学名誉教授、構成員9名で8月から開催。
- 庶務は総務省AI政策推進室、経産省情報経済課とAIセーフティ・インスティテュート(AISI)が合同で担う。
原文:第33回 合同会議ページ / 資料1 WG開催要綱
2026.07.14 第Ⅱ期 人工知能基本計画を閣議決定(7月10日の本部第5回で案を決定)
内閣府
- エージェント型AIの伸長を前提に、行政から始める「日本AX」、バーティカルAI・フィジカルAIへの重点化、「開かれたAI主権」を掲げた。
- ガバナンスでは「AI法を含めた制度等を能動的かつ不断に見直す」と明記し、各府省の制度・指針の自主点検を促す仕組みの構築、AIサミットの早期日本開催を盛り込んだ。計画は当面毎年変更する。
- 素案へのパブリックコメントは6月19日〜23日の5日間で8,774件。本部第5回ではバーティカルAI領域別戦略の中間とりまとめ(20領域)も示された。
原文:人工知能基本計画(第Ⅱ期)概要 / 本部第5回 議事概要 / 専門調査会第6回 資料1-1 意見募集結果
2026.07.10 改正個人情報保護法が成立:AI開発・統計目的での本人同意不要特例と課徴金制度
国会
- 4月7日に国会提出、5月26日衆院可決、7月10日参院で可決・成立し、7月17日公布(令和8年法律第56号)。
- 統計作成等(AI開発を含む)を目的とする個人データ提供で本人同意を不要とする特例と、特例上の義務違反などへの課徴金制度を創設。第Ⅱ期基本計画は下位法令の整備を進めるとしている。
原文:参議院 議案情報 / 全国消費者団体連絡会 声明(7月13日)
次に来ること
- [2026年秋以降(日程未公表)] 「AIによるリスク」検討WGの審議 要綱上は8月から開催。AI事業者ガイドライン別添のリスク記載の更新論点を扱う。 · 根拠
- [2026年10月以降(日程未公表)] 消費者委員会 AI専門調査会で対応策の検討 第9回で「環境整備について具体的に検討する必要」とされ、第10回で海外制度の調査報告を受けた。取りまとめ時期は公開資料で確認できず。 · 根拠
- [2027年1月17日(予定)] 改正個人情報保護法の一部(罰則関係)施行 同意不要特例や課徴金を含む本体は公布から2年以内に政令で定める日に施行。 · 根拠
流れ
| 日付 | できごと | 種類 |
|---|---|---|
| 2024.04.19 | AI事業者ガイドライン(第1.0版)を公表 総務省・経済産業省 | 報告書 |
| 2025.02.04 | AI戦略会議・AI制度研究会が中間とりまとめ(法制度の方向性) 内閣府 | 報告書 |
| 2025.05.28 | AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が成立。6月4日公布 国会 | 法律 |
| 2025.09.01 | AI法が全面施行、人工知能戦略本部の設置規定が施行 内閣府 | 法律 |
| 2025.09.12 | 人工知能戦略本部 第1回。AI法16条調査(性的ディープフェイク生成AI、雇用でのAI活用)を報告 内閣府 | 会議 |
| 2025.12.19 | 本部第3回で「AI適正性確保指針」を本部決定 内閣府 | 計画・決定 |
| 2025.12.23 | 人工知能基本計画(第Ⅰ期)を閣議決定 内閣府 | 計画・決定 |
| 2026.02.13 | AI技術の利用と消費者問題に関する専門調査会が初会合 消費者委員会 | 会議 |
| 2026.03.31 | AI事業者ガイドライン第1.2版を公表(AIエージェント・フィジカルAIを追記) 総務省・経済産業省 | 報告書 |
| 2026.04.07 | 個人情報保護法改正案を国会提出(AI開発等での同意不要特例、課徴金) 国会 | 法律 |
| 2026.04.07 | 米Anthropicが脆弱性の発見・修正性能の高い「Claude Mythos Preview」を公表。政府のサイバー対策の契機に 海外 | 出来事 |
| 2026.05.18 | 14府省庁等で高性能AIを踏まえたサイバー対策パッケージ「Project YATA-Shield」 内閣官房 | 計画・決定 |
| 2026.06.19 | 本部第4回(持ち回り)で基本計画素案。同日から5日間の意見募集(8,774件) 内閣府 | 会議 |
| 2026.07.10 | 改正個人情報保護法が成立(7月17日公布、令和8年法律第56号) 国会 | 法律 |
| 2026.07.10 | 本部第5回で基本計画案を決定、バーティカルAI領域別戦略の中間とりまとめ 内閣府 | 会議 |
| 2026.07.14 | 第Ⅱ期 人工知能基本計画を閣議決定 内閣府 | 計画・決定 |
| 2026.08.07 | 「AIによるリスク」検討WGの設置を決定(メール審議、8月13日まで) 総務省・経済産業省 | 会議 |
| 2026.09.18 | 令和9年度概算要求のAI関連予算は約2兆9,392億円+事項要求(令和8年度当初は5,027億円) 内閣府 | 予算 |
論点
| 論点 | 立場A | 立場B | いま |
|---|---|---|---|
| AI法そのものの見直し | 第Ⅰ期基本計画(R7.12):AI法16条の調査研究を実施し「リスクへの対応等を適切に行う」 | 第Ⅱ期基本計画(R8.7):「AI法を含めた制度等を能動的かつ不断に見直す」。生貝委員は集中的に検討する場を求めた(専門調査会第6回) | 方針は明記、場と時期は未定 |
| AI開発のための個人データ利用 | 改正個人情報保護法:AI開発等の統計目的で本人同意を不要とする特例と課徴金を創設 | 全国消費者団体連絡会(R8.7.13声明):同意不要の例外拡大、課徴金が安全管理義務違反を対象外とする点などに懸念 | 成立・公布済み。下位法令の整備へ |
| 対話型・エージェント型AIと消費者の意思決定 | AI事業者ガイドライン第1.2版:事業者の自主的なリスク対応が基本。AIエージェントのリスク・留意事項を追記 | 消費者委員会AI専門調査会(R8.9検討状況案):迎合性・擬人化等の影響は個人で自衛困難、「環境整備」を具体的に検討すべき | 両方で継続検討 |
| AI主権と国産モデル | 第Ⅱ期基本計画:「開かれたAI主権」。源内で国内開発モデルも積極活用 | 岡田陽介委員(専門調査会第6回):全てを日本で完結させるのは困難、自国で担う領域と同盟に委ねる領域を切り分けるべき | 方向性あり、線引きは未着手 |
| フロンティアAIのサイバーリスク | Project YATA-Shield(R8.5):AISIの評価・情報提供、政府の高性能AI活用による対処力強化 | 第Ⅱ期基本計画:AISIの評価結果を制度・運用改善に接続する仕組みを整備 | パッケージは始動、制度への接続は検討中 |
| 計画づくりの手続 | 人工知能基本計画(素案)の意見募集は6月19日〜23日の5日間(8,774件) | 意見募集への意見:1か月程度の期間を求める声。内閣府は「スケジュールに鑑み短期間」と回答し個別対話の場を設けるとした | 毎年改定のため次回以降も論点 |
各立場は、人工知能基本計画(第Ⅰ期・第Ⅱ期)、専門調査会第6回議事概要と意見募集結果、AI事業者ガイドライン更新資料、消費者委員会専門調査会第9回資料、全国消費者団体連絡会声明から要約。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
人工知能戦略専門調査会
名簿の時点 第1回(R7.9.19)資料1-2 委員名簿時点。名簿16名のうち15名を掲載(山口真一 国際大学GLOCOM准教授〔名簿時点〕を省略)。第6回議事概要では一部委員の所属表記が更新されている。
- 松尾 豊 座長 東京大学大学院工学系研究科 教授
- 生貝 直人 一橋大学大学院法学研究科 教授
- 伊藤 錬 Sakana AI 共同創業者 COO
- 江間 有沙 東京大学国際高等研究所東京カレッジ 准教授
- 岡田 淳 森・濱田松本法律事務所外国法共同事業 パートナー弁護士
- 岡田 陽介 株式会社ABEJA 代表取締役CEO
- 川原 圭博 東京大学大学院工学系研究科 教授
- 北野 宏明 ソニーグループ株式会社 チーフテクノロジーフェロー
- 佐渡島 庸平 株式会社コルク 代表取締役社長
- 田中 邦裕 さくらインターネット株式会社 代表取締役社長
- 永沼 美保 日本電気株式会社 CDO Office 主席プロフェッショナル
- 原山 優子 GPAI東京専門家支援センター長
- 福岡 真之介 西村あさひ法律事務所・外国法共同事業 パートナー弁護士
- 村上 明子 IPA AIセーフティ・インスティテュート 所長
- 森 正弥 博報堂DYホールディングス 執行役員 Chief AI Officer
人工知能(AI)技術の利用と消費者問題に関する専門調査会
名簿の時点 令和8年4月1日現在の委員名簿
- 小塚 荘一郎 座長 学習院大学法学部 教授
- 丸山 絵美子 座長代理 慶應義塾大学大学院法務研究科 教授
- 大塚 智見 大阪大学大学院法学研究科 准教授
- 岡崎 直観 東京科学大学情報理工学院 教授
- 加藤 絵美 Consumer Rights Japan 理事長
- 唐沢 かおり 東京大学大学院工学系研究科 特任研究員
- 坂下 哲也 日本情報経済社会推進協会 常務理事
- 田中 優子 名古屋工業大学 教授
- 野村 竜也 龍谷大学先端理工学部 教授
- 馬籠 太郎 電通デジタル グループマネージャー
お金
このテーマに束ねた39事業。令和7年度当初 1,983億円 → 令和8年度要求 144億円。
注目点
- 令和9年度AI関連予算は事項要求が26件あり、年末の政府予算案で源内・GENIAC・防衛AIなどにいくら付くか。
- 第Ⅱ期計画が掲げた「AI法を含めた制度等の見直し」と府省の自主点検の仕組みが、どの会議体で具体化されるか。
- 消費者委員会AI専門調査会が、エージェント型AIの勧誘・誘導に法的な手当てを求める取りまとめに進むか。
- 「AIによるリスク」WGでの議論が、AISIの評価やYATA-Shieldとどう接続され、ガイドラインのリスク記載に反映されるか。
- 改正個人情報保護法の同意不要特例について、個人情報保護委員会の下位法令でどこまで要件が絞られるか。
出典
- 内閣府 AI戦略(トップ・最近のトピックス)
- 人工知能戦略本部 開催状況
- 人工知能戦略専門調査会 開催状況
- 専門調査会 第6回 議事概要
- 人工知能基本計画(第Ⅱ期・第Ⅰ期)
- バーティカルAI領域別戦略 中間とりまとめ概要
- AI法に基づく調査研究等について(本部第1回 資料2-4)
- 総務省 AIネットワーク社会推進会議
- AI事業者ガイドラインの令和7年度更新内容
- AIネットワーク社会推進会議・AIガバナンス検討会 構成員(R8.8.7時点)
- 消費者委員会 AI専門調査会
- 国家サイバー統括室 Project YATA-Shield
- 参議院 個人情報保護法改正案 議案情報
- 参議院 AI法案 議案情報
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