次の感染症危機への備え
新型コロナの経験を受け、政府は2024年に新型インフルエンザ等対策政府行動計画を全面改定し、2025年には国立健康危機管理研究機構(JIHS)を発足させた。2026年3月にはワクチンに加え治療薬・診断薬まで国内で開発・製造・確保する「MCM戦略」を閣議決定し、令和9年度概算要求では厚労省の感染症対策が当初予算の約6倍に膨らんだ。平時に採算の合わない医薬品や病床・工場を、誰がどのような仕組みで維持し続けるかが問われている。
選んだ理由:次の感染症危機への備え。厚労省が中心で、文科省のワクチン研究や内閣感染症危機管理統括庁も。会議の開催が最も多いテーマの一つ。
中心の会議体・場
- 新型インフルエンザ等対策推進会議 内閣官房(内閣感染症危機管理統括庁) · 政府行動計画について有識者が意見を述べ、各省の取組の毎年度フォローアップを確かめる場。
- 厚生科学審議会 感染症部会 厚生労働省 · 感染症法に基づく指針・指定医療機関の基準、備蓄方針、MCM(感染症危機対応医薬品等)の支援と法制度などを審議する場。
- 厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 厚生労働省 · 定期接種の対象・使用ワクチン、予防接種法の政省令、予防接種事務のデジタル化などを審議する場。
上の会議体は、テーマの中心として手で選んだもの。事業と会議体の自動の紐付け(事務局の課室の一致)は、テーマの事業56件のうち23件。
ブリーフ
対象期間 2026-07-01〜2026-09-29。「読み筋」は資料からの要約・解釈です。
2026.09.02 予防接種・ワクチン分科会 第67回:今年度のコロナ定期接種を決定、予防接種法改正の成立を報告
厚生労働省
- 新型コロナは引き続きB類疾病として65歳以上等を対象に定期接種し、期間は10月1日〜翌年3月31日とする事務局案を了承。今後も同じ期間を基本とする。
- 使用ワクチンは5社のXFG対応またはNB.1.8.1対応の1価ワクチン。国内では現在BA.3.2系統が主流で、これらのワクチンの同系統への中和抗体は低めとの非臨床データも示された。見込み供給量は約702万回分。
- 予防接種法改正法(令和8年法律第76号)の成立を報告。抗体製剤も予防接種に使えるようになり、RSウイルスの抗体製剤の定期接種化はワクチン評価小委員会で議論が続く。
原文:資料1-1 新型コロナワクチンの接種について / 資料3 予防接種法改正法の成立 / 第67回 議事録
2026.08 令和9年度概算要求:感染症対策は551億円→3,302億円、MCM対策は78億円→2,129億円
厚生労働省・内閣感染症危機管理統括庁
- 厚労省感染症対策部の要求は2,371億円(うち「強く豊かな日本」投資枠1,582億円)。他局の分を含む感染症対策全体は3,302億円(令和8年度当初551億円)、再掲のMCM対策は2,129億円(同78億円)。
- 新規事業として、国が開発目標(TPP)を定め承認後の収入保障や備蓄の買上げを行うMCM確保支援(206億円)や、国内のワクチン大規模生産体制・危機対応医薬品の国内製造体制への支援(2事業で計960億円)が入った。
- JIHSの体制強化は341億円(同177億円)、予防接種事務のデジタル化は192億円(同4億円)。統括庁の要求は5.32億円(同4.87億円)で、訓練・研修費を増やした。
原文:感染症対策部 概算要求の概要 / 厚労省 概算要求の主要事項 / 統括庁 予算要求の概要
2026.07.16 新型インフルエンザ等対策推進会議 第23回:政府行動計画の2回目のフォローアップ
内閣感染症危機管理統括庁
- 協定を結んだ病床は49,179床(目標45,681床)、発熱外来は41,917機関(目標41,643)、流行初期の検査能力は約26万件/日(目標約10万件)と、数値目標を上回ったと報告(いずれも2025年10月1日時点)。
- 委員からは、協定を結んだ医療機関が実際に動けるかを訓練で確かめるべき(大曲委員)、既存のタイムラインを磨くより始まり方の違うシナリオと「危機かどうか」の判断を演習すべき(齋藤委員)といった指摘が出た。
- エボラ出血熱のPHEIC(2026年5月)と、クルーズ船でのハンタウイルス(アンデスウイルス)集団感染への対応も報告された。
原文:資料1-1 フォローアップのポイント / 第23回 議事録 / 統括庁トピックス
2026.07.08 感染症部会 第106回:感染症指定医療機関の指定基準の見直しに着手
厚生労働省
- 第一種感染症指定医療機関には、疑い例・患者の受け入れと一次診療を確実に行うため、都道府県との訓練と、指定後に基準を満たしているかの定期確認を指定基準に入れる案を示した。
- 一類感染症の重症患者への高度医療は、特定感染症指定医療機関と一部の第一種に集約し、都道府県を越えた連携で担う方向を指定基準で明確にし、ECMO等の設備や人員の別基準を設ける案。第二種は次回以降に議論する。
- エボラのPHEICを受けた調査で、一類感染症の対応マニュアルがない自治体が16、医療機関との訓練がない自治体が12あった。入国時の感染症ゲノムサーベイランス(5空港)の実績も報告。
原文:資料1 指定基準のあり方 / 資料2 入国時ゲノムサーベイランス / 議事次第・委員名簿
次に来ること
- [2026-09-30] 感染症部会 第107回:MCM戦略を踏まえた支援・法制度の主な検討事項(案) MCM戦略は、国内のワクチン製造施設を持続させるための「必要な法制度等の在り方」の検討を求めている。法改正につながる論点整理の入り口になる。 · 根拠
- [2026-10-01] 令和8年度の新型コロナ定期接種が始まる 65歳以上等が対象で、翌年3月31日まで。予防接種実施規則の改正も同日施行の予定。 · 根拠
- [2026年12月] 令和9年度予算の政府案 MCM確保支援や国内製造体制支援など、投資枠で要求した大型の新規事業がどこまで認められるかが決まる。 · 根拠
- [公布から6か月以内] 改正予防接種法の施行とRSウイルス抗体製剤の定期接種化の議論 施行日は政令で定める。抗体製剤を定期接種に加えるかは、ワクチン評価に関する小委員会で議論中。 · 根拠
- [次回以降の感染症部会] 第二種感染症指定医療機関の指定基準 第一種の見直し案に続き、第二種の論点を整理して議論するとされた。 · 根拠
流れ
論点
| 論点 | 立場A | 立場B | いま |
|---|---|---|---|
| 平時に売れないMCMをどう確保するか | 研究開発費の直接支援(プッシュ型)だけでは足りず、承認後の買上げ・備蓄などプル型支援を導入してMCMエコシステムを作る(MCM戦略) | 個別の支援だけでなく、企業の新規参入を促し、アカデミアのシーズを非臨床・治験薬製造・薬事まで一体で支える政府支援が要る(推進会議 河岡委員) | TPP連動の収入保障・備蓄買上げ206億円を新規要求。9/30の感染症部会で支援・法制度の検討事項が示される。 |
| コロナ期に作ったワクチン工場を平時にどう維持するか | 持続可能な生産体制のために「必要な法制度等の在り方」を検討する(MCM戦略) | 感染症対策は平時には費用対効果が見えにくく、無駄な支出と受け取られがち(内閣府 健康・医療戦略推進事務局の説明資料) | 国内大規模生産体制・国内製造体制への支援を計960億円で要求(概算要求の表と本文で2事業の内訳が食い違う)。査定と法制度の検討はこれから。 |
| 一類感染症の重症患者をどこで診るか | 全ての第一種指定医療機関で重症・小児・妊婦まで診る体制は現実的でなく、高度医療は一部に集約して広域連携(感染症部会 事務局案) | 集約先への移送、特に空路が必要な場合の連携体制を並行して整理する必要(同じ事務局案の注記)。マニュアルや訓練のない自治体もある(厚労省調査) | 第一種の基準見直し案を7/8に提示。第二種は次回以降。 |
| 数値目標の達成で備えは十分か | 病床・発熱外来・検査能力の協定は目標を上回った(統括庁フォローアップ) | 協定医療機関が実際に動けるか訓練で検証すべき(大曲委員)。現場との乖離をチェックすべき(冨髙委員)。人材育成は目標値自体がない(安村委員) | 毎年度のフォローアップを続け、6年ごとの行動計画見直しにつなげるとしている。 |
| 初動をどう設計するか | 初動体制の中でタイムラインの改善を図る(統括庁の説明) | 海外発生から国内流入という1つのシナリオに限らず、始まり方の違うタイムラインと「危機かどうか」の判断を演習すべき(齋藤委員) | 統括庁は令和9年度に訓練・研修費を0.85億円から1.51億円に増やす要求。 |
| ワクチン価格に国がどこまで関与するか | 新型コロナワクチンの価格に国は直接関与せず、価格交渉は自治体が行うという趣旨の説明(厚労省、清山委員の意見書による) | 自治体が製造販売業者と直接交渉する機会はなく、購買力もない。予防接種基本計画が求める価格の透明性・適正化に国が関与すべき(清山委員 宮崎市長) | 9/2の分科会で意見書が読み上げられた。制度の見直しは示されていない。 |
MCM戦略(2026年3月24日閣議決定)、推進会議第22・23回の資料と議事録、感染症部会第106回資料、予防接種・ワクチン分科会第67回議事録、令和9年度概算要求の資料による。
人
中心の会議体の構成員(公開名簿より)。
新型インフルエンザ等対策推進会議
名簿の時点 2026年4月24日現在(委員16人中15人を掲載)
- 五十嵐 隆 議長 国立成育医療研究センター理事長
- 安村 誠司 議長代理 福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター長、医科大学教授
- 泉沢 和之 日本商工会議所 社会保障専門委員会委員
- 稲継 裕昭 早稲田大学政治経済学術院教授
- 大曲 貴夫 国立健康危機管理研究機構 国立国際医療センター副院長、国際感染症センター長
- 河岡 義裕 国立健康危機管理研究機構 国際ウイルス感染症研究センター長、東京大学
- 齋藤 智也 国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 感染症危機管理研究センター長
- 笹本 洋一 日本医師会常任理事
- 滝澤 美帆 学習院大学経済学部教授
- 冨髙 裕子 日本労働組合総連合会副事務局長
- 奈良 由美子 放送大学教養学部教授
- 平井 伸治 鳥取県知事
- 藤田 尚子 藤田法律事務所 弁護士
- 堀 幸子 日本経済団体連合会 危機管理・社会基盤強化委員会企画部会長
- 前葉 泰幸 津市長
厚生科学審議会 感染症部会
名簿の時点 2026年7月8日現在(委員19人中15人を掲載)
- 脇田 隆字 部会長 国立健康危機管理研究機構 副理事長
- 大曲 貴夫 国立健康危機管理研究機構 感染症臨床政策部長
- 小竹 桃子 東京都保健医療局 技監
- 坂本 史衣 板橋中央総合病院 院長補佐
- 笹本 洋一 日本医師会常任理事
- 島田 智恵 国立健康危機管理研究機構 緊急事態対応課長
- 鈴木 陽 宮城県塩釜保健所長
- 詫摩 佳代 慶應義塾大学法学部教授
- 土井 洋平 藤田医科大学 医学部教授
- 原 めぐみ 佐賀大学医学部教授
- 藤田 尚子 藤田法律事務所 弁護士
- 松本 哲哉 国際医療福祉大学 医学部教授
- 三﨑 貴子 川崎市健康安全研究所長
- 宮﨑 義継 国立健康危機管理研究機構 研究企画部長
- 四柳 宏 国立健康危機管理研究機構 理事
お金
このテーマに束ねた56事業。令和7年度当初 199億円 → 令和8年度要求 275億円。
注目点
- 9/30の感染症部会で示されるMCMの支援・法制度の検討事項が、どの法律の改正(または新法)に向かうか。
- 令和9年度予算の政府案(12月)で、投資枠で要求したMCM確保支援・国内製造体制支援がどこまで認められるか。
- 改正予防接種法の施行日と、RSウイルス抗体製剤を定期接種に加えるかの結論。
- 感染症指定医療機関の指定基準(第二種を含む)の見直しと、都道府県を越えた移送の仕組みの整理。
- エボラ出血熱のPHEICが続く中での、一類感染症の受け入れ体制と検疫の強化。
出典
- 新型インフルエンザ等対策推進会議(開催状況)
- 推進会議 第23回 資料1-1 フォローアップのポイント
- 推進会議 第23回 議事録
- 推進会議 第22回 資料1-1 MCM戦略の策定
- MCM戦略(2026年3月24日閣議決定)
- 新型インフルエンザ等対策政府行動計画
- 厚生科学審議会 感染症部会
- 感染症部会 第106回 資料1 指定基準のあり方
- 感染症部会 第105回 資料2 基本指針の中間見直し
- 感染症部会 第107回 開催案内
- 予防接種・ワクチン分科会
- 分科会 第67回 資料1-1・資料3
- 分科会 第67回 議事録
- 予防接種法改正案(第221回国会提出)
- 令和9年度 感染症対策部 概算要求の概要
- 令和9年度 統括庁 予算要求の概要
- 推進会議 第23回 資料4-1・4-2(ハンタウイルス、エボラ)
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